「海の闇、月の影」は友達がコミックを全巻所有していたので、読ませてもらったのですが、内容が衝撃的だったので、ぐいぐい引き込まれ、すぐに自分でも購入したのを覚えています。
主人公やその周りにいる人たちが、命の危機に合うというサスペンス要素もたっぷりで、私が今までに読んだことのないタイプの少女マンガでした。
かなりダークな描写もあるのですが、それだけに作品全体にただならぬ緊張感がただよっています。
主人公の流風が、ウイルスで性格の変わってしまった双子の姉妹の流水や、流水によって感染させられてしまった家族や友達や知人を何とか元に戻そうと、恋人の克之とともに次々と能力者たちに立ち向かっていくところが面白かったです。
その中で、いろいろな魅力的なキャラクターが登場します。とくにジーン・ジョンソンはミステリアスで、常人には考えられないような行動力と双子以上の能力をもっていて、何を考えているのかわからないような人物です。
しかし読み進めていくと、一見完璧に見えるジーン・ジョンソンにも弱いところがあり、それが彼と闘える糸口になることがわかります。そして最終決戦の船での回想によって、彼には哀しい過去があることがわかります。
そこで彼が世界を手に入れたい理由が判明するのです。ジーン・ジョンソンが起爆装置で船を爆破し、船を棺にして海に沈んでいくシーンはとても切ない気持ちになりました。あのシーンは本当に名場面です。
でもこの後ストーリーは急展開をむかえることになります。
さまざまな能力をもった能力者たちと闘っていくことになるのですが、中には予想もできないような能力者などがいたりして、驚きもありました。とくに最期の能力者はまさかの人物が現われたりして続きを読む手をとめられませんでした。
クライマックスが近づくにつれて面白さもぐんぐん増していきます。
そして最終話では、なんとなく分かってはいたけれどその悲劇性に涙がとまりませんでした。ラストの朝日が昇る絵は、いつまでも心に残っています。
この「海の闇、月の影」という作品は全体的に暗めの作品といえます。でもとにかくハラハラドキドキの連続で、私が今まで読んだ少女マンガの中で一番おもしろかったといっても過言ではありません。
主人公の流風がピンチになったときには、かならず克之が助けてあげたり、また流水との三角関係など恋愛要素も複雑に組み込まれています。どんな目にあっても必死に流風を守ろうとする克之は本当に健気に感じました。
正直、私は最初は流水があんまり好きではありませんでした。なぜなら初期の流水が怖すぎたし、流風から克之を何度も奪おうとするのが嫌でした。
しかし後半になってくるにつれて、流水は流水で辛い思いをしていることがわかり、だんだん同情するようになっていきました。とくにラストで流水が絶命するシーンでは本当に悲しくてしかたありませんでした。
もともとは流風と同様に優しい性格をしていたのです。たまたま克行が好きだったために、嫉妬のせいで性格が激変してしまったのだから、たくさんの罪をおかしてしまったのも流水のせいではないのです。
正直なところ、ラストは流水には元の性格に戻って、流風とやりなおして幸せになってほしかったです。
ですが、この作品は間違いなく名作だと思います。構成がすばらしくて読者を飽きさせません。
そして絵がなんといっても繊細で美しく、細部までこだわった描写がすばらしいです。私も絵を描くのが趣味だったので、こんな綺麗な絵が描けたらなあと憧れたりしていました。
カバー絵のカラーの絵も好きで、この作品の画集ももっています。
今でもときどき本棚から取り出して読み返し興奮と感動にひたっています。