ほんわかとした絵のタッチで好評の南波あつこ先生の作品です。
この作品は、高校に入学した都築りかと3年生の美野原圭吾ことみの先輩が主人公です。
りかの高校での目標は「願わくば甘い恋がしたい」です。
私自身も同じようなことを入学時に思っていました。
とても近い感覚で始まる話ですが、そんなりかとその友人ゆうちゃんが学食で昼食をとっているとき、部活の新入生勧誘を行っていたみの先輩とその友人てっちゃん先輩もその場にいました。
てっちゃん先輩がりかとゆうちゃんを見つけて勧誘を決行します。
半ば強引に、でもりかは勧誘された瞬間みの先輩に恋をします。
みの先輩たちに連れていかれた部室に書かれていたのは「現代文化研究部」でした。
要は遊び中心の部活で、なんでもありの部活です。
りかはみの先輩に会いたくて毎日部室に顔を出します。
好きな人と一緒にオセロをしたり勉強を教えてもらったり、とても幸せな時間を過ごします。
しかし、時間が過ぎると聞きたくないことも知ってしまいます。
それは入れ替わりで卒業した沖田葵さんという先輩の存在でした。容姿端麗、秀才で学校内でも評判の良かった先輩です。
その先輩に片思いをしていたみの先輩は、卒業してもなお葵さんのことは忘れられませんでした。
でも、葵さんには彼氏がいます。
それを知っていて片思いを辞められないみの先輩…その証拠が部室においてあるクッションでした。
とても楽しそうに見えたのにそんな過去があって、到底りかにはかなわない恋だとかなり序盤のほうで気づかされます。
偶然遊びに来た葵さんに嫌悪感を示すりかは、部室を飛び出してしまいます。
そして偶然みの先輩と葵さんがキスをする瞬間を見てしまいます。
次に葵さんが来た時にりかは尋問し、エスカレートしてビンタしあう結果になってしまいます。
それでりかの本気具合を知ったみの先輩は、少しずつりかに好意を寄せていきます。
かなりの急展開で1巻の中盤で二人は結ばれますが、みの先輩の心のどこかに葵さんの影があったようです。
りかに葵さんを重ねるようなシーンもあり、無理して付き合っているのかなと思ってしまう場面も少々あります。女性でも男性でもそんな付き合い方は苦しいですよね。
りかもうすうす気づいていたその苦しさをある日みの先輩に吐き出します。
そして、二人は別れることになります。
お互い気まずくて顔を合わせないように、みの先輩は受験勉強に没頭してりかは部室に行かないようになりました。
でもお互いどこかで気にかけている部分があって、りかはお正月に合格お守りを買っててっちゃん先輩に託します。
でも「私からってことは絶対言わないで」と念を押します。
私もこんな経験があります。
気まずくてメールの受信を拒否したりサイトをブロックしたり、同じ教室で顔を合わせるのも嫌な時がありました。
でも気になってお願いごとをするときに彼の名前を出したり彼とのメールを読み返したりしてしまいました。
きっとこんな「あるある」を先生は書いたのだと思います。
共感を得る描写が多い中、ついに卒業式を迎えます。
部員である以上、部活の集合写真に写らないといけないのでいやいやながらも参加するりかは、ゆうちゃんが忘れてきたカメラを部室にとりに行きます。
人の気配を感じて窓の外に目をやると、そこにはみの先輩がいました。
「ここなら会える気がしたから…」と思いの丈を吐き出して本音を伝えた二人は、手をつないでみんなのもとに戻ります。
紆余曲折あったからこそ、最後につないでいた二人の手はとても強く結ばれているように見えました。
大人でもなく子どもでもない高校生という難しい年頃だからこそ、描写も繊細で、特にりかの心の動き方は女性なら共感できる部分が大きかったと思います。
多くの女性がうなずきながら読める、2巻という少ない巻数でも内容の濃い1冊だと思います。