第一巻ですので、主人公はもちろん主要な登場人物の人物像を紹介するような内容が多いのですが、一話目から一気に、町田くんの世界に引き込まれます。
主人公の町田一くんは高校生の男の子なのですが、不器用で自分では何も得意なものは持っていないと思っています。
確かに勉強も運動も料理も得意とはいえません。またイケメンというわけでもないので、同級生の猪原さんには名前も覚えてもらってはいません。
設定はそうでも、作画を見ると十分イケメンじゃないかということもありますが、このマンガでは間違いなく冴えない青年の部類に入るルックスです。
けれど読んでいるうちに、この町田くんがとても魅力的な人間だと思うようになります。
彼は先生が荷物を重そうにしているとそれを運んであげたり、背の小さな女の子が背伸びしながら掲示物を張ろうとしていると黙って画鋲を止めてあげたり、それほど仲がいいわけでもない野球部の生徒がレギュラー入りしたのを知っていて激励したりと、どれも小さなことですが、相手が思わずほっとしたり、笑顔になったりすることを、地味にさらりとやってのけてしまいます。
神経質だとか、繊細だとかいうのではないし、意識的でもないので、ただただそういう性格なんだなと思わされます。
同級生で授業をさぼってばかりいる猪原さんに対しても、その猪原を好きでがんばっている西野くんに対しても、町田くんは決して熱血になることはなく、ただ素直に二人のいいところを正面から伝えます。
その微妙な熱量とか力加減みたいなところが、押しつけがましくはないのだけれど、揺るぎない強さを感じさせます。
そんな町田くんの力が、静かに染みこむように、他の登場人物や読んでいる人の心に伝わってゆきます。
天地がひっくり返るような事件とか非日常とか、特別な事はなにも起こりませんが、そんなものとはまったく無縁な、ごくありふれた日々の中に、目立たないけれど愛が満ちあふれています。
町田くんはそんな当たり前なのに、忘れがちなことを教えてくれます。
ひと言でいえば、ただのお人好しなのかもしれませんが、それもまた当たり前なのに特別なことです。
普通の少女マンガとは、だいぶ違った感じがする作品ではありますが、読んでいると、どこかくすぐったいような優しさを感じます。
自分には何か得意なことや特別なものなどないと、ついネガティブに思ってしまうような時に、このマンガを読むと、まあそれも悪くはないかと、諦めでも希望でもない達観のようなものが生まれます。
長いこと「別マ」に連載され、たくさんの賞を受賞し、多くの評価を得たマンガであることが、素直に納得できる第一巻です。