「子育て日記」というサブタイトルにはおさまりきらない、盛りだくさんのお話です。
知的障害者ということの苦しみ、その家族の大変さや葛藤、またどういう支援体制があって、現代社会に何が足りないのか…など、さまざまなことが1巻から問題提起されています。
TVなどでも少しずつ蓋をされることがなくなった障害の世界を、もっと身近に感じさせてくれるお話です。
とはいってもマンガですので、もちろんギャグなどを交えて楽しく読むことができますよ!
主人公で知的障害者のゆずは、「知能」は6歳程度しかない面もありますが、性格に裏表のない朗らかで心優しい二十代の女性です。
はたからは健常者にしか見えない、しかも美人さんらしいという設定です。
父母と弟の4人暮らしで、施設での仕事もこなし、何不自由ない生活を送っているように見えたのに、なんと母にも施設のケアマネジャーさんにも内緒で妊娠していた、という衝撃の展開です。
このシチュエーションは障害者に限らず、つい「自分が親だったら」と考えてしまうパターンですよね。
しかも発覚したのが、相手の同じく知的障害者の男性が、事故で亡くなったとの通報が来てからという、初手から驚きの連続です。
ゆずの母親の、不幸から娘を守らなければという過度な責任感と、障害がある娘をどこまで一人の人格として認めるか…つまりはゆずの出産を認めるか…という間で悩む姿は、本当に切なくてもらい泣きしてしまいます。
TVのニュースでも優生保護法の過去の被害について報道されていたことがありましたが、単に「人権」と、ひとことでジャッジできない問題だということが重くのしかかる感じです。
でも「子供がほしい」という気持ちを殺すなんてありえない、亡くなった男性の分まで幸せにするという、曇りのないゆずの気持ちは、自分の心の一番底のあたりにスッとしみこんでくるように思います。
母に認めさせようと、自立して行動できることを示そうとして失敗し、自分で髪を切ってしまう場面もあります。
目指していることは自立でも、やっていることは癇癪の爆発で、このへんは知的障害者だから、というより思いつめた人になら誰にでも起こりそうなエピソードではないでしょうか。
結局、ケアマネージャーの助けもあって母とも仲直りし、ゆずは出産にこぎつけます。
亡くなった男性が最後までゆずのために持っていた「ひまわり」を娘の名前につけるシーンは、愛する人の死の悲しみを乗り越えて成長したゆずの、勝利宣言のように思えてしまう感動どころでした。