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コミック

ミスターレディ 全2巻 感想

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古い作品になりますが、里中満智子先生の「ミスターレディ」をご存知でしょうか。なんと、1977年に発行された漫画です。

読んだのは随分昔なのですが、ことあるごとにいくつかのシーンやセリフを思い出すほど、心に残る漫画なのです。

主人公は、園丘太郎と園丘花子という男の子と女の子の双子です。二人は園丘食品のお坊ちゃんとお嬢様。

大きなお屋敷に住み、青いバラを作り出すことを夢見てバラを育てる祖母、会社社長の父、おしとやかな日本女性(を外では演じている)母に愛され何不自由のない暮らしなのですが、実は二人には大きな秘密がありました。

太郎は少女のような心を持ち、花子は男の子のような活発でおてんばだったのです。

とはいえ、太郎は男性を好きになるわけではありませんし、花子も同級生のブルーに恋をしますから、現代であればそれほど大きな秘密にすることもない程度のことなのですが、この漫画が刊行された頃には今ほどジェンダーに関することも語られていませんし理解されていませんでしたから、この頃の設定としては十分アリだったのだろうなと思います。

逆に言えば、まだそれほど注目されていなかったジェンダーに関する意識を扱った斬新な作品と言えるでしょう。

一見恵まれた何の問題もない家族のように見えながら、実は祖母と母の間にある嫁姑の角質、父と母が実はカカア天下でありながら、家族に対しても亭主関白を演じる滑稽な姿、そして太郎と花子の、本当の自分を押し隠して家族の理想のために演じる「男らしい男の子」と「女らしい女の子」。

家族全員が無理をして保っている穏やかな家庭生活の中で繰り広げられる、様々な出来事。

そこにさらにそれぞれに個性豊かな登場人物たちが加わって、物語がすすんでいきます。

見栄っ張りで花子にライバル意識を燃やしている転校生のお嬢様・りり子が、太郎の素直なふるまいに次第に惹かれていったり、ケーキ作りに情熱を燃やす、洋菓子店「ブルー」の息子・ブルーは、太郎に変装していた花子と偶然出会い、直観的に恋心を抱きます。

しかし花子ではなく太郎だと信じ込んでいたブルーは、自分は男性に惹かれたのかと真剣に悩むのです。また、広大な敷地を持つ園丘邸にくっつくように建っているあばら家に住む貧困家庭の同級生・みのるは、花子に恋をしていますが、自分の家庭との格差を考えるとどうしても花子に想いを伝えることができず、影で花子を支えて見守るのです。作者の遊び心か、後半では作者自身をモデルにした漫画家も登場し、漫画家の実態を描いています。

中でも印象に残っているシーンは、太郎と花子の兄妹、ブルー、りり子がそれぞれの家の商売のために、料理コンテストに参加するシーンです。芸能人に混じって、なぜか一般審査員にみのるも参加しています。

出来上がる直前に、りり子によって、太郎と花子のおにぎりが卵だらけになってしまうのですが、花子が機転をきかせてパン粉をつけてフライにし、ピンチが逆転してより美味しくなるシーンがあります。

花子がつい口走る、「男たるもの冷静に!」のせりふに、りり子が「男?」とつっこんだりする笑える場面も。

審査員がみな満腹で、不利だったところをみのるが無理をしてがっついてみせたり、最後に決勝で大食い競争となったときに、花子がブルーやりり子を思ってわざと降参したり、人間ドラマ満載です。

今の時代に読み返しても、少女だけに読ませておくのはもったいないと思ってしまうくらいに様々なテーマが詰まっています。

自分らしさとは、世間の目とは、貧富の差とは、天職とは―ー。

軽快なテンポに笑ってしまいながらも、人間って、人生って、と考えさせられてしまう、奥深い作品です。


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