不朽の名作「カードキャプターさくら(以下CCさくら)」。クリエーター集団CLAMPによって「なかよし」に連載され、2018年から公式続編「クリアカード編」のアニメ放送が始まりました。
この作品において好きなのは様々な恋愛の形が柔らかく、同列のものとして登場してくる所です。魔法少女作品としてのアクション、ミステリー要素を縦軸としながら、横軸では同性同士、遠距離恋愛、先生と生徒といった様々な間柄での好意が登場します。しかし、作中で用いられるのは「おつきあい」「すきな人」という少年少女読者に馴染みやすい柔らかな言葉であり、「ビアン」「ゲイ」「セクシャルマイノリティ」「同性愛」といった言葉が先行してしまうような、枠を作るような表現が登場することはありません。そんな様々な恋をする人たちの元をさくらちゃんは一人ずつ巡ってお話を聞き、告白してくれた小狼くんに返事をする…という最終回はとても深く心に刻まれています。
CLAMPのシナリオ担当大川七瀬さんはファンブック「CLAMPノキセキ」内で、「さくらをマイノリティにも普通に接する子として描きたかった」と発言していますが、外国人の小狼くん、社長お嬢様の知世ちゃんにも、いつも笑顔で、かつ思い遣りを忘れずに接しています。そんなさくらちゃんだからこそ、小狼くんや知世ちゃんも優しい気持ちになり、笑顔でお喋りしているコマが多いのだろうと微笑ましい気持ちになります。
ヒロインのことを好きな男性が二人いて片方が振られる…という展開が定番の少女漫画ですが、CCさくらで振られるのはヒロインのさくらちゃん自身です。桃矢さんが好きであることと、さくらちゃんの本当に好きな人を見つけるのが遅くなってはいけないという理由で雪兎さんはさくらちゃんの想いをそっと返しますが、二人のやりとりはとても優しく、声を荒げたり困惑することもなく、お互いを理解して話し合いたいという思い遣りに満ちています。さくらちゃんは小狼くんに慰められ泣いた後に元気を取り戻し、お兄ちゃんの友達である雪兎さんとまた素敵なお友達としての付き合いを再開します。
雪兎さんの別人格、月さんとさくらちゃんの関係も独特でとても深みがあります。月さんにも雪兎さんの時の記憶があると知りながらも雪兎さんに想いを告白したさくらちゃん、主従関係を結びながらもさくらちゃんの笑顔やひたむきさによりかつての主と自分以外の新しい人間関係を知っていく月さん。人間と創られた存在の間の「なかよし」な関係もこの作品の魅力であり、色んな関係があってもいいんだよという事を押しつけがましくなくそっと教えてくれるのです。
NHK教育テレビ(現在のEテレ)で長期アニメ化もなされたCCさくらですが、前半のクロウカード編はほとんど、後半のさくらカード編、現在放送中のクリアカード編では全話分の脚本を、前述の大川七瀬さんが執筆しています。このため、こんなシーンを描きたかったのかな?などと思わせられるようなエピソードが随所に散りばめられています。真の姿のケロちゃんと月さんのエピソードは原作にはあまり多くなかったため、彼らが仮の姿に戻れなくなってしまう話はとても面白く、また興味深いお話でした。
子供向けにさらに分かりやすい表現になっている台詞や演出もアニメでは多いのですが、原作漫画もコマ数少なくし余白を多めに、可愛いシーンの書き文字は丸っこくかわいいものになるよう五十音分作って練習し子供達が読みやすいように気をつけた…というのはCLAMPの作画担当、もこなさんのコメントです。確かに単行本を開き直すと、小さい頃になんとなく感じた優しい雰囲気が色褪せずに蘇ってきます。
大人になってからも、読み返す度に新たな発見がある作品です。今一度「ほえー!」の世界を体感してみて欲しいです!
カードキャプターさくら 全12巻 感想
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