『君に届け』は、見た目はとても陰気で、黒髪ロングのホラー映画の”貞子”のようだけど、中身はとてもピュアで一生懸命な性格の女の子が、高校生活を通して成長していく物語です。
漫画の絵はとても繊細できれいで、丁寧に描かれています。
主人公の爽子（通称：貞子）は、見た目の暗さのせいでまわりから誤解されて、なかなかクラスになじめないところから物語が始まります。モテモテでキラキラのかわいい女の子が主人公のことが多い少女漫画の中で、珍しいタイプの主人公だなと思いましたが、まわりから避けられても、誤解されても、一生懸命人に声をかけようと思ってがんばる爽子を見ているうちに、健気で大好きになりました。特に２巻で、初めての高校の友達ができる場面では、派手な女子たちにトイレで囲まれながらも、一生懸命自分の言葉で向かっていく姿を見て、号泣です。何度読んでも号泣です！
初めての友達の”ちづちゃん”、”あやねちゃん”、大好きな”風早くん”、初めてのライバルの”くるみちゃん”、みんなみんなそれぞれ大好きなキャラクターです。まっすぐで不器用なちづちゃんと寡黙で一途な幼馴染”龍”との恋もすごくどきどきです！
個人的には、ライバルのくるみちゃんが好きです。見た目は芸能人のようにかわいいのに、中身はとても強気で、少し天邪鬼で、でも実はとてもまじめ。くるみの初恋の風早と、爽子の、恋をこじらようとしてしまう”ケント”を、長財布でビンタするシーンは最高です(笑)実はとても正直で、曲がったことが大嫌いなのだと思います。君に届けにでてくるキャラクターはみんないい子たちですが、その中でもくるみちゃんが１番、人間らしいのではないかと思います。だからこそ、くるみの気持ちが痛いほどよくわかって、くるみがくやしい気持ちだったり、嫉妬したりして、悩んだりしている部分にとても共感します。
風早くんと爽子の恋についてですが、10巻くらいまでは、もどかしい関係ですが、ついに２人の気持ちが通じ合う場面！ここはもう伝説の場面です！
気持ちがすれ違って絡まり合っている２人。
そんなとき、風早くんは教室で１人窓の外を見ています。爽子はグランドで、もうどうしようもないくらいに風早くんを好きだという自分の気持ちを確信します。
いますぐこの気持ちを伝えたいと思った爽子に、友達の龍が「教室」と伝えます。
もうまわりの様子が何も目に入らない爽子は教室に向かって走り出します。途中、すれ違ったくるみちゃんにも気づきません。
くるみちゃんも、爽子が何をしにいくのか察します。その時の顔が何とも言えない顔で、切なくなります。
爽子はダッシュで教室にたどり着きます。息を切らして戸の前に立ちます。気づく風早くん。戸の前に立ちます。
この一連の場面には、セリフはなく、教室のカーテンが風で揺れる様子、誰もいない廊下、教室の机、チャイム…など、絵だけで情景が思い浮かんで、その場に自分もいるようで、どきどきします。自分の高校生活を思い出して重なります。
爽子は戸の外から、どうしようもない溢れる気持ちを伝えます。「すき。すき…」と。もう私までどきどきして、きゃー！！！となります。
この漫画は、２人の気持ちが通じて終わりではなく、そこからのストーリーもステキです。
付き合い始めてからの悩み、（触れたいけど触れられない。嫌われたくなくて聞けない…などなど）初々しいです。高校３年になってからの将来の悩みについては、高校生ならリアルに共感するだろうし、過ぎてしまった高校生活を懐かしく思う人もいるかもしれません。就職する人、進学する人、大好きな人と別れてしまうかもしれない不安な気持ち、家を継ぐことについての悩み…などなど、楽しい毎日だからこそ、離れる不安や寂しさが大きくなって、それぞれのキャラクターたちは悩みます。
この漫画は、みんなが楽しく仲良く終わるのではなく、そこからまた次の道にそれぞれが進んでいくことを応援する場面で終わります。少し寂しいけれど、キャラクターたちが、ちゃんと漫画の中でその先を進んでいっているような気がして、何年か後、みんながどんな大人になっているか知りたいと思わせるような漫画です。
