お父さん、チビがいなくなりました 感想
※ネタバレ注意です※
子供もそれぞれ巣立ち、飼い猫のチビと共に夫婦水入らずの暮らしをしている勝と有喜子。
長年の勝の無口で無関心な様子を不満に思いながらも平凡な暮らしを続ける有喜子でしたが、ある日、飼い猫のチビが居なくなってしまいます。
ペット探偵まで雇い、必死で探す有喜子、相変わらず彼女に無関心な勝。
夫婦の溝がどんどん開いていく中、勝は有喜子の昔の同僚でマドンナの志津子にこっそり会っていました。
勝は本当は志津子の事が好きでしたが、有喜子との見合いを断り切れずに仕方なく有喜子と結婚したものと、今は未亡人の志津子も、そして有喜子本人もそう思っていたのです。
チビの行方も解らないままで積年の不満が爆発し、 耐えきれなくなった有喜子は勝と離婚する事を決意します。
青天の霹靂の勝・・・。
泣き出した有喜子に、勝は若い日の初恋の思い出と有喜子への思いを話し出します。
勝が思いを寄せていたのマドンナの志津子ではなく有喜子だった事も。
有喜子に嫌われたくなくて結婚後も気を遣い過ぎ、結果“無関心に見える夫”になってしまった事も。
その夜、いなくなっていたチビがこっそり帰って来ます。
少女マンガには珍しく、初老の夫婦がメインですが、夫婦の娘の恋愛にもスポットを当てていて、若い世代の方でもすんなりと読めると思います。
熟年離婚(未遂に終わりますが)と言う重いテーマなのに、さほどの悲壮感を感じないのは、何より西炯子先生の繊細かつハイセンスな絵柄のお陰とも言えるでしょうね。
永遠の乙女のような主人公 ・有喜子にも女性なら年齢を問わず誰でも感情移入出来ます。
子供達の困惑、男と女の考えの相違なども描いてあり、男性も読んでもらいたい場面が多々登場し、さらに末娘を慕うイケメンが夫婦の危機を救おうと奮闘するあたりはキュンキュンする事請け合いです。
そして、そこかしこにちりばめられた勝の隠れた“優しさ”
それは“男はこうあるべき”という昭和の男の美学が邪魔をして有喜子には伝わらないのがやきもきします。
最後の勝の告白、“好き過ぎた”“嫌われたくなかった”、それが裏目に出てしまった事。
勝の目は最初からマドンナの志津子を通り越して有喜子しか映っていなかった事。
不器用だけど一途で誠実な勝の本当の姿を知った時、思わず涙が出て来ます。
勝と有喜子は結婚して子供も孫も持ったというのに、それぞれ長い間・・・・・・それこそ何十年も片思いをしている状態だったのです。
愛ゆえのすれ違いに悩んでいた二人の疑問が払拭された時の清々しさと感動は読む者の心を打ちます!
例えて言うなら “長い長い時間をかけて成就するラブストーリー”
黒猫のチビは二人の愛情を互いに気付かせる為のキューピッドと言った役割です。
淡々とした雰囲気なのに、ハラハラドキドキもします。
ですが最後はハッピーエンド。
少し気分がささくれだっている時にほっこりする為に読みたいマンガです。