明るい表紙の単行本に惹かれて読み始めましたが、とても深く考えさせられる内容の漫画でした。
ある日家を失った主人公・透が、クラスメイトの草間由希の家に居候をするのですが、「異性に抱きつかれると動物に変身する」という特異体質(本作では特異体質をもつ人から呪いと表現されています)をもつ一族の秘密を知ってしまった、という内容の漫画で一見するとギャグ漫画のようでした。
しかし、登場人物のそれぞれの苦悩や悲しみ、過去が涙なしでは読めないものばかりです。
私の好きなシーンはたくさんありますが、いくつかご紹介します。
まずひとつ。草間一族のひとり、草間紅葉の過去の話。とても明るい男の子ですが、母親は紅葉のことを忘れています。呪いをもつ子供を出産したことから精神を病んでしまい、これ以上酷くならないようにと息子の記憶を消されてしまったのです。
紅葉はそれでも母親が大好きで、いつも影から見ているのです。そんな紅葉のセリフで
「だけどボクは思うんだ。ボクはちゃんと思い出を背負って生きていきたいって。たとえばそれが悲しい思い出でも。ボクを痛みつけるだけの思い出でも。いっそ忘れたいって願いたくなる思い出でも。ちゃんと背負って逃げないでがんばれば、がんばってればいつか…いつかそんな思い出に負けないボクになれるって信じてるから。信じていたいから。忘れていい思い出なんてひとつもないって思いたいから。」
透も母を交通事故で亡くしています。透の母との別れのシーンもあり、何回読んでも涙が出ます。
二つ目は、数少ない女性の草間依鈴の話です。無理をして平和な家庭を築こうとしていた両親の怒りに触れてしまい、虐待され、発見されたところで見捨てられてしまったという過去を持つ依鈴。
その頃からよく遊ぶようになった同じ特異体質をもつ草間撥春に恋心を抱きますが、自分の過去に負い目を感じてしまいます。撥春から告白され、無事に結ばれ幸せになれたのもつかの間、当主の逆鱗にふれ大怪我を負います。
当主に「お前なんかただの数合わせ」「いらない」と窓から突き落とされるのです。でも依鈴は思います。
「いらないって言われてきたアタシを望んでくれる人がいた。嬉しい…なんて幸せなことだろう。アタシ幸せだった、ありがとう。嬉しい、でももういいよ。もういいよ春。今度は春が幸せにならなくちゃ。」
恋人のために呪いを解いて、もっと広い世界で幸せを見つけてほしい、と思い、このあと撥春と別れるのです。
しばらく一人で戦う依鈴でしたが、透と心を通わせるようになり、ふられても諦めず一途に思い続けた撥春とヨリを戻すシーンは感動しました。
三つめは、気に入っているキャラクターの紹介です。本作中で一番規格外れな草間綾女。草間由希の兄ですが、弟とは真逆で常にハイテンション、周りの目も気にしません。彼が出てくるシーンは間違いなく笑えます。
人の気持ちが分からず大人になってしまい、次期当主という圧力から助けを求めた由希を見捨ててしまっていたことを悔いているという過去もあります。
そのため由希と分かり合えるようになりたいと試行錯誤しているのですが、どれも空回りしています。
しかし、いい所も嫌なところもお互いを理解するようになっていき、由希は綾女を尊敬できるように気持ちが変化していきます。
照れくさそうに分かりあっていく由希は、普段クールな場面も多いのでとてもかわいらしいです。
特異体質を持つという点を除けば、各キャラクターの苦悩や過去は現代社会に通じるものもあり、思い悩んだ時に読み返すと、ふっと気持ちが楽になれる、そんな漫画です。語り尽くせないほどの魅力があります。ぜひ読んでみてください。