この作品は、もともとは氷室冴子さんが書かれた小説で、それをもとに山内直美さんが漫画化したものです。
平安時代の貴族社会を舞台に、主人公の瑠璃姫が繰り広げる恋愛物語です。
もとが小説という事もあって、お話にほころびが無く、筋が通っていて読みやすいです。
平安時代は現代の私たちにとってはるか昔のことで、風俗や習慣なども違いますが、その説明を分かりやすく話の中に織り込んでいるので、何の違和感もなく読み進めることができ、また勉強になります。
話の主軸は大貴族の娘、瑠璃姫の恋愛と結婚、それに宮廷貴族の陰謀が絡みます。瑠璃姫は勝ち気で頭が良く、行動力があります。その為ストーリーは彼女を中心にどんどん進んでいくので、飽きることなく読み進めることができます。
この、彼女の現代的な性格のおかげで、読者はすんなり平安の世界に飛び込んでいけるのです。
情に流されやすく、また、女らしい打算的な部分もあります。
そんなところも好感を持って受け入れられる主人公です。
また、彼女は平安時代の案内役も担っており、お話の中で平安時代の貴族のしきたりなどを教えてくれるので、途中馴染みのないものが出てきても、詰まることなく読み進められます。
そんな彼女のお相手は、幼馴染で貴族の高彬です。
破天荒な瑠璃姫と比べて常識のある落ち着いた性格をしています。そして瑠璃姫を一途に思っています。
「歌が下手」と言われれば一生懸命練習します。
瑠璃姫が様々なお相手に好意を寄せられても彼から離れようとはしません。
破天荒な自分に一番合っているのは高彬だと瑠璃姫自身が言うとおり、お似合いのカップルです。
この作品の絵はすっきりと現代少女漫画風、丁寧で見やすいです。
また、平安時代という事もあって女性はみな袿姿や十二単で描かれるので、画面も夢があって華やかでかわいらしいです。
氷の重ねなどという言葉も出てくることから、難しい着物の構造や色目までもしっかり勉強されて描かれているのが伺えます。
また、この漫画は登場人物の喋り方に特徴があります。
基本的には現代人と変わりませんが、自身より位が上の者の事を話す時は、聞いたことのないような敬語を使います。
特に高彬の台詞は難解です。それがさっぱりわからなくても、瑠璃姫がきちんと現代語訳をしてくれるので安心です。
源氏物語などを読むと、平安時代の結婚など、男性から一方的に求愛されたり、政略上仕方なく結婚したりと、女性は受け身で自分というものがまるでない印象を受けます。
一人の男が何人も娶る、一夫多妻制でもありました。
しかしこの作品の瑠璃姫は、そのすべてを否定し、現代女性のようにふるまいます。
結婚相手は私が決める、結婚したら私一人だけ。
それが無理なら独身でもかまわない。平安時代の常識に、瑠璃姫は私たちが慣れ親しんだ現代の常識をぶつけます。
それが、長らく虐げられてきた私たち女性にとっては小気味よく清々しく感じます。
そしてこの作品には、お話を書くことの基本が詰まっているように思います。まず、時代物なのでその時代について徹底的に調べてあります。
その上で、読者が感情移入しやすい主人公を作り、ぶれることなくどんどん話を進めていく。主人公が主人公らしい活躍をします。
そして、時代のしがらみも抜かりなくきちんと描く。起承転結もあり、読者を飽きさせない工夫が施されている。話も冗長でなく、読後感も良い。基本に実に忠実だと思います。
随分昔に発刊された作品ですが、古臭さを感じさせず、今読んでも面白いです。
少女漫画というカテゴリーに入りますが、老若男女を問わず、誰でも気軽に楽しめる作品です。
漫画そのものを楽しむ方にも良いし、漫画家を目指している方などにもお手本となると思います。自宅の本棚に入れておきたい漫画です。
