夏目友人帳、20巻 感想
※ネタバレ注意です※
「夏目友人帳」20巻です。
夏目友人帳を読んだことはなくとも、これまでに何度かアニメ化されているため、もしかしたらそちらを観ていた方や、本もアニメも知らないけれどタイトルくらいは聞いたことがある、という方もいるかもしれませんね。
小さい頃から妖怪の姿や声を見聞き出来る主人公「夏目貴志」と、ひょんなことから彼の用心棒(?)を務めることとなった妖怪「ニャンコ先生」が中心となって織り成す優しい世界観の妖怪物語です。
20巻には全部で4つの話が載っています。
まずは1話目「つきひぐい」です。
夏目とニャンコ先生は、壺の中に頭がはまって取れなくなったという妖怪「つきひぐい」の手助けをしてあげました。
するとつきひぐいは、お礼だと言って夏目を子供の姿にしてしまいました!
それどころか、体と一緒に記憶まで子供の頃に戻ってしまったらしく、ニャンコ先生のことも、現在一緒に暮らしている藤原夫妻のことも覚えていません。
この状況をどうするべきか、ニャンコ先生は頭を抱えます・・・。
子供の頃の夏目は、人間と妖怪の区別が今以上についていませんでした。
そのため「自分にしか見えない何か」に対して、そして「それにより周囲に迷惑がかかること」を恐れて毎日を過ごしていました。
今は理解してくれる友人や仲間も増え、この話の中でも快く協力してくれています。
ですが子供に戻っている夏目は「本当に友達なのか?」「信用していいのか?」と疑ってしまい、同時に自己嫌悪に陥るという負のループに入っています。
そんな彼はもちろんですが、夏目を支える友人達の思いや行動も見所の話です。
2話目は「流れゆくは」です。
合宿先のお堂に飾られていた4つのお面。
しかしどうやら他の生徒には3つしか見えていないようです。
1つは妖怪だと気付いた夏目はこのお堂とお面にまつわる話を聞いて回ります。
お面のデザインはシンプルなのですが、そのシンプルさが却って不気味なこのエピソード。
ですが妖怪の正体は、亡くなった旦那さんからの贈り物であり形見でもあるかんざしを探していた山の女神。
最終的に、夏目とニャンコ先生がかんざしを渡してあげて、ハッピーエンドを迎えます。
話を読んだ後にもう一度お面の絵を見ると、恐怖感ではなくむしろ心がほっとしました。
いつでも見守ってくれていると思えるのですから。
3話目は「とおかんや」です。
仲良しの妖怪に頼まれて買い物に行く途中、歩くかかしがある家に入っていくのを見た夏目。
因縁のある妖怪退治屋とも偶然出会い、なりゆきで退治屋の手伝いをすることになりました。
タイトルの「とおかんや」とは人と妖怪の勝負事で、住処を欲しがる妖怪がその家の住人を十日間脅かし続け、人が出て行ったら妖怪の勝ち。
家は妖怪のものとなります。
夏目と退治屋は考え方こそ異なりますが、それぞれの理由から妖怪や、それにまつわる物との解放を望んでいます。
今までの夏目は、退治屋を始めとする妖怪がらみのことを避ける傾向や、関わってもあまり自信がなさそうにしていました。
ですがこの話では、多くの経験と出会った人々によって支えられている夏目の成長と芯の強さが見られます。
ラストの4話目は「いつかの庭」。
ある日夏目はもらった花の種を植えるため、作り方を教わって花壇を作りました。
しかし次の日になると崩れていたり、石の数が減っているのです。
もしや妖怪の仕業ではと考えた夏目は一晩張り込んでみることにしました。
すると案の定、石を持ち去っていく妖怪達がいました。
しかしそれには理由があって・・・。
「箱屋敷」という小さな箱の中に造られたお屋敷。
そこは「しだ姫様」と呼ばれる妖怪の宿となるのです。
その修繕のために石をせっせと集める妖怪達が健気で、しだ姫様への想いが強いのだというのが伝わってきます。
そのしだ姫様もまた美しい。
台詞らしい台詞はなく、ただ静かに花の咲いた木を眺めるだけなのですが、それだけで妖怪達が何をしてくれたのか、全部理解しているように見えるのです。
人と妖怪はもちろんですが、人と人、妖怪と妖怪を繋ぐ温かい絆を見られるエピソードばかりが詰め込まれた、素敵な巻だったと感じました。
21巻も楽しみです。