この物語は、十二支（＋猫）の呪いをもつある一族と、偶然出会った一人の少女との物語です。
両親を病気と事故で亡くし、山で1人テント暮らしをしていた主人公・本田透（ほんだとおる）は、その山の持ち主である草摩家の鼠憑き・由希（ゆき）と、戌の紫呉（しぐれ）と偶然出会い、物の怪憑きの秘密を知ってしまったことから、草摩家のお家でお世話になることになります。
この第6巻は、異性に抱きつかれると十二支の物の怪に変身してしまう草摩（そうま）家の1人、草摩夾（そうまきょう）と、その育ての親・草摩藉真（そうまかずま）が再開するところから始まります。
猫の物の怪憑きである夾は、雨の日になると体調があまり優れません。そんな雨の季節に、育ての親であり道場の師範でもある藉真が夾を訪ねてやってきます。
藉真の目的は一つ。夾の『本来の姿』を透に知ってもらうことでした。
猫憑きは、他の十二支憑きと比べ、忌み嫌われ、蔑まれる存在でした。
夾が猫憑きとして生まれてしまったことで精神を病んだ母親は、夾が幼い頃に自殺してしまいます。それに対して父親は、「お前のせいだ」と夾を責め、幼い夾は味方のいない中「おれのせいじゃない…！」と叫び、そこに現れたのが藉真でした。
猫憑きには、他の十二支憑きにはない『本来の姿』と呼ばれる、もう一つの姿がありました。それはとても醜くて、鼻がもげるような臭いを発する異形の姿。
猫憑きだということで人生を諦めている夾に、藉真は言います。
「『本当の姿』を知られるのが怖い 知られて失うのが怖い …ならば私はその逃げる手を取ろう 失うか失わざるか その結果を導こう お前の人生は本当に 「終わっている代物」なのかどうか」
心に大きな傷を負う夾と、悲しい過去を背負いながらも明るく笑顔で過ごす透。
この巻は、そんな二人の今後の関係や在り方を左右する巻です。
透に見られたとわかり、全力で逃げる夾。それを、怖いと思い、臭いに吐いてしまいながらも追いかける透。拒絶しようとする夾を必死につなぎ止めようとする透の姿に涙が止まりません。
そして透は震える腕で夾にしがみつきながら伝えます。
「夾君が私の弱音をちゃんと聞いてくださるように 夾君の弱音も私に聞かせてほしい……っ 辛い事も 怖い事も 弱い事も ちゃんと教えてほしい 悩ませてほしい 一緒に」
そうして、夾の心を少しずつ溶かしていく透の温かさや、子を想う藉真の親心が、存分に詰まった一冊です。
