とりかえ・ばやは、平安時代末期の物語を漫画化した作品です。
おてんばで聡明で男性的な性格の沙羅双樹の姫君と、おしとやかで奥ゆかしい女性的な性格の睡蓮の若君という美しい双子の男女が自分の生き方に葛藤し、成長していくストーリーが魅力的です。
それぞれ違う母親から生まれた二人ですが、とても美しく瓜二つなのが本当に運命的です。
二人の父親である藤原丸光は、二人の性格が真逆なことを最初は嘆きますが、後にそれを受け入れます。
ストーリー展開がスムーズなので、とても読みやすく、一気に読めてしまいます。
予想がつかない展開に驚きつつ、早く次が読みたくなるような内容です。
そして、絵がとても綺麗なので、キャラクターがより引き立ちます。
二人がどれほど美しいかが良く分かるので、より感情移入してしまいます。
双子で同じ顔をしている二人が、自分の性別や生き方に疑問を抱き、立場を入れ替える決意をするところから、様々な試練や運命に翻弄されることになります。
そして、二人が美しいということもまた、問題をややこしくしてしまいます。
二人の美しさや聡明さは当然、都中の噂になります。
若君(沙羅双樹の姫君として生きている)は帝やプレイボーイである男性達からの誘いを断り続け、姫君(睡蓮の若君として生きている)は妻となった女性との生活に困惑していく様子が、読んでいてとても苦しそうで辛いです。
現代であっても、自分らしく生きることがとても難しいのに、性別や身分や立場が重視される平安時代にそれを成し遂げようとする決意をする二人を応援せずにはいられません。
幼少期から、女性は女性らしい遊びをして、女性らしい生き方をすること、そして、男性も男性らしい遊びや生き方を求められるという当たり前のことに、改めて違和感や疑問を投げかける作品です。
現代では少しずつ、そういった女性らしさや男性らしさを自由にしていこうという動きがありますが、平安時代であればそれに反して生きることがどんなに辛いことだったか容易に想像がつきます。
平安時代にこの作品を読んだ人達は、漫画とは内容は全く一緒ではないでしょうが、斬新な発想と大胆な内容に驚いたに違いありません。
それでも、二人を取り巻く人間関係も必見です。二人の周りの人達も、魅力的な人ばかりなので、よりストーリーに惹きこまれます。
二人の秘密を知っていて応援してくれる人、何も知らずに翻弄される人、そして二人の敵となるような人などとのやり取りなどのストーリー展開から目が離せません。
特に、身分が高いほど周りに人が多くてプライバシーがなくなっていくので、秘密を隠し通すのが困難になっていきます。
次から次へと起こる問題に、機転をきかせて立ち向かっていく二人の姿が感動的です。
そして、後半の最大のみどころは、二人の恋の行方です。
立場を取り替えていく決意をして、もう後戻りできない二人でしたが、やはり、人間の自然な感情である恋や愛といったものから逃れることはできませんでした。
平安時代の恋の仕方もとても上品で、美しいのがとても印象的です。
月夜に歌を送り続けて愛を深めていくなんて、本当にロマンチックで素敵です。
周りを欺くという決して許されない決意をした二人は、抗えない感情に対してどのような決断をするのか、そして立場を取り替えた二人は、どのようにして恋や愛を成就させるのか、とても感動的なラストが待っています。
二人が最後にどのような選択をするのか、どのような生き方をするのかは必見です。
そして、強い意志を持つことの重要性や、誰にも恥じることなく自分らしく、自信を持って生きなければいけないということの重要性を、改めて考えさせられる作品です。