聖千秋先生の作品はずっと長年大好きで、現在に至るもずっと新刊を買い続けている、数少ない漫画家さんの一人です。そんな聖先生の作品の中でも、一番好きなのがこの「そーだそーだぁ!」です。
少女漫画の主人公と言えば、大抵、何だかんだと言って、可愛かったり、キレイだったり、モテたり、何らかの羨ましい要素が絶対にどこかに存在していると思います。容姿に対してのコンプレックスがある設定でも、思いこみだったりする場合が多いです。そういう場合、多くの場合、ごくごく普通の、決して男性にモテるというタイプでない自分は、主人公に感情移入したりするのは難しく、まあ、マンガの中の世界だから・・・と主人公になった気分で読んで楽しんでる場合が殆どです。
でも、この漫画の主人公は、恐ろしい位に普通の女の子なのです。ここまで、普通の女の子が主人公の漫画というのは実はそうは無いのです。現実には、絶対に漫画の主人公にはなりえないような主人公で少女漫画を描き、それがまた本当に色んな人物の色んな部分、側面が、実際の生活でも絶対にありそうなナマな感情も、絶秒に組み込まれていて、そしてなおかつ、少女漫画に必須の胸キュン場面が一杯含まれている。どこか作りものではないこの少女漫画の世界、大げさすぎない表現、でも、あくまで架空の少女漫画の世界である、その絶妙感が、私がこの漫画を好きな理由です。
主人公のえんちゃんは決してクラスで目立つタイプの女の子ではないのだけれど、クラスのみんなに慕われている、とてもやさしい女の子。その友達思いのやさしいえんちゃんの恋愛とえんちゃんのクラスメイトのそれぞれの秘めた恋が物語の軸になっているんですが、自分の高校の時の振り返ってみても、実にありそうな話なのです。そんな、誰もが経験したであろう学生時代の、良い子のえんちゃんの心の中とか、クラス一・学校一の美人のミクの心の中のねじくれた葛藤とか、同じくクラス一・学校一のモテ男のサカホンの恋とか、読んでいて、大人になった私は、それぞれの立場に共感してしまい、それぞれに応援してしまうのです。自分に嫌悪しながらも友達を裏切ってしまったり、学生時代の何とも甘酸っぱい恋の気分と、告白してフラれたり、告白しないまま後悔したり、そんな恋愛の周囲で起きた色んな事なんかを思い出して、何度も何度も読み返してしまうのです。
良い子のえんちゃんが自分の気持ちに気付いてしまう。友達のミクが好きなサカホンを好きな気持ちに気がついて、それを友達の前で告白して号泣するシーンはもうこっちも泣けてきて、良い子のえんちゃんの自分の中の色んな葛藤とついに向き合うシーンは本当に良ったです。何の裏もなく、真っ白に良い子なんて個人的には絶対いないと思うのです。でも、自分自身が良い子ではないので、良い子の心の中はどうなってるのか計り知れません。そんな部分を本当に上手く描き出していて、心を掴まれました。ミク自身も、サカホンにえんちゃんがサカホンの事を好きだと、最後にはふっきれてそれとなく伝えたり、最初は自分を応援していても、それぞれが辛い気持ちを乗り越えて、やっぱり、でも、友達の事を考える。その流れも凄く良かったです。
ドロドロの中で、妬んだり、裏切ったり、裏切った自分を嫌悪したり、でも、それでも、強い気持ちというのが恋する気持ちです。封印しようと思ってもそう簡単には封印できないが為に、恋愛の周囲には色んな事が巻き起こります。この漫画はえんちゃんだけでなく、クラス全体を客観的に見ながらの作品構成で、えんちゃんをとりまくクラスメイト達の恋や葛藤も同時に描いていた。その部分も従来にはちょっとなかったと思うので、特別に感じる少女漫画なのではないかと思います。