連載されているのは少年雑誌なのですが、多くの女の子にも読まれている作品です。本屋さんでも単行本が、たくさんの少女マンガと一緒に並んでいます。
まず特筆すべきは、絵がとてもかわいいのです。男の子も女の子も、みんなそれぞれ魅力的で制服姿にもきゅんとなります。
題名にもなっている人物、湯神裕二は、ちょっと変わり者です。勉強もできて野球部のエースといえば、普通はクラスの人気者かと思いきや、実は彼はとんでもないマイペースな人間なのです。自分の一番の味方は自分、と言い切る彼は、常に好きなように行動し、人に合わせることを最も嫌い、友達なんていらないと思っています。いつも一人でも全く平気で、毎日をとても楽しんでいるのです。
そこへ転校してきたのが綿貫ちひろです。父親の仕事の都合で小さい頃からいつも転勤転勤で引越しを繰り返し、転校ばかりしてきた彼女は、せっかく仲のよい友達ができてもいずれは別れてしまう繰り返しから、いつの間にか親友を作らず人と距離を置いた付き合いに慣れてしまっています。しかし今度の転校は、長期滞在になる父親に言われ、今度こそ友達を作って高校生活を充実させたいと考えています。そんな彼女が転校初日に初めて言葉を交わしたのが、湯神くん。しかも、同じクラスで席は隣。ところが、湯神くんは友達なんていらないと思っている、超マイペースな少年だったのでした・・・。
この二人を中心に、野球部の後輩の角田くん、野球部マネージャーで面倒見のいい久住さん、久住さんにべったりでちひろに敵対心を抱く百瀬さん、湯神くんと幼馴染なのにすっかり忘れられていた林山くん、と多彩な登場人物たちが、ドラマを繰り広げていきます。みんな、「ああ、こういう人っているなあ」と思わせるキャラクターばかりで、現実に自分のまわりにいる友人たちを思い出したり重ねてみたり、ああ、これは私だ、と気づかされたりしているうちに、ぐいぐいと話に引きこまれていきます。
特に修学旅行のエピソードでは、班分けのときに起こる「班分けあるある」や、山で遭難中の心理状態から一生まれるクラスのおとなしい男子・八重樫くんとイケイケ男子・渡辺くんの一瞬だけの友情など、作者の人間観察眼の鋭さにあらためて脱帽です。
紆余曲折ありながらも、少しずつ友達ができて楽しくなってきたちひろ。不器用で一生懸命な姿に、思わず応援したくなってしまいます。人と関わるのを好まないはずなのに、なぜか結果的にちひろを助けてくれていたりする湯神くん。もし湯神くんのような人が現実にいたら、いじめだとか仲間はずれだとか、何か暗い方向へいってもおかしくないのに、人と関係をあまり持たないはずの湯神くんのまわりにはなぜだかいつも人がたくさんいて、彼のことを気にしていたり、助けていたりもするのです。
そして、ところどころに散りばめられた笑いもこのマンガの大きな魅力です。さわやかな青春のシーンに見せかけて、パンチの効いたオチが待っていたり、登場人物がぶつぶつ小声でつぶやく内容に思わず噴出してしまったり。電車の中や公共の場所で読むと、声を出して笑ってしまうので要注意です。
読んでいて、何かのマンガに似ているな、何か思い出すな・・・と思っていたら、あだち充先生のマンガに雰囲気が似ていることに気づきました。どうやら私だけではなく、同じ感想を持つ人も少なくないようです。舞台が高校で、野球部が出てきて、高校生たちのさわやかな学生生活が描かれているところも共通していますし、なにより読み終わった瞬間、疑似体験で気分がすっかり高校生に戻ってしまって胸がなんだかきゅんと切なくなるところも重なります。
夢中になって続きを心待ちにする作品が、またひとつ増えました。