こんな最悪の出会いをした相手が、高校生活3年間の中心になるなんて。
主人公の日比野椿(以下つばき)は、がり勉で地味な高校性で、入学したその日に、同じクラスで同じ名前の金髪の椿京汰(以下京汰)に無理やりキスをされるシーンがとても印象的です。
まるで襲われたかのようにショックを受けて泣き崩れるつばきの姿には、何かを失ってしまったかのような喪失感を覚えました。
最悪のスタートです。
そんなつばきですが、だんだんと京汰に関心が移っていく過程にドラマがありました。
京汰は勉強は週に5日カラオケ屋でバイトしているのに学年トップの成績で、容姿は端麗。誰でも惹かれてしまうような、完璧な男子です。
しかし、実際の京汰は、心に深い傷があります。
母に捨てられて暴力な父親の元に置いて行かれた記憶、信頼していた小学校の保健室の先生が同僚の教師と不倫している場面を見てしまった記憶。
そんな数々の記憶のせいで女性に対する不信感が強く、遊び相手はたくさんいても本当の彼女はいない悲しさを持っていました。
そんな悲しみを覆い隠しながら、宇宙や星に対する興味が強く、大学では天文学を専攻するために最難関国公立を目指し、尚且つ学費を稼ぐためにアルバイトをする高校生活を送っている京汰が、恋愛の経験がゼロで不器用に、周囲をなぎ倒すようにしながら自分に向かってくるつばきを、何度も傷つけながらも、二人が関係を気づいていく姿が好きで、何度でも読み返したくなります。
私が特に気に入っているのは、喧嘩して京汰に嫌われてしまったつばきが、京汰の誕生日に、室内でプラネタリウムを見ることが出来るグッズをプレゼントしようとするところです。
周囲の助けを借りて、夜の教室で二人きりになり、プラネタリウムを鑑賞するシーンです。
プラネタリウムの星々の光が、夜の教室一杯に広がる中、泣き崩れるつばきを、京汰が後ろから抱きしめてキスをして仲直りするシーンはとても美しく、憧れも相まって大好きなシーンの一つです。
また、第一巻では入学式だった二人が2年生となって修学旅行に行くところも印象深いです。
真面目なつばきは大学の内申点を気にして、二人きりで抜け出すことを提案する京汰を冷たく突き放し、
「お前の都合の良いときだけ寄ってくれば?」
と言われてしまいます。
京汰はやや強引な性格で遊びっ気があり、優等生タイプのつばきからすると信じられないような言動があり、すると京汰の側からは面白くないのもうなずけます。
そんな二人なのですが、つばきのミスもあり、二人きりで修学旅行先の島に取り残されてしまいます。
結局、次の日にはみんなのいる地点に合流できるのですが、二人は一夜を同じ部屋で泊まって過ごすことになります。
最後まではいかないものの、素肌で触れ合うことで感じる相手の肌のぬくもりに、つばきは動揺しながらも不思議な安心感、ぬくもりのようなものを感じるのですが、その時のつばきの姿は大人でもなく子供でもない、本当にその中間にいるのだという気がして、私の大好きな場面です。
以上は恋愛についてのみ触れてきたのですが、作品の中では将来の進路に関する葛藤もあり、特につばきの、大学に行く為に勉強していてもその先は何だろう、という漠然として不安が、京汰の
「つーか、お前のやりたいことって何?」
という台詞で一気に膨らんでしまい、懸命に将来を模索し始めるつばきの姿も、この作品の中で忘れなれないところです。
最終的に、つばきはある美容師と出会い、自分のやりたいことは美容師であると気づくのですが、そこで母親と対立し、全力で自分の想いを母親に向かって貫き通す姿には、心を動かされるものがありました。
器用で要領の良い京汰と、不器用で要領の悪いつばき。つばきの名前が〝つばきつばき〟となる日を迎えるまで、たくさんの感動がありました。