Nemuki+(ネムキプラス) 2015年 09 月号 雨柳堂夢咄、「手紙」 感想
※ネタバレ注意です※
今回の主人公は荻原征太郎さんという男性です。
この荻原さんのもとに、彼やその家族の人生の節目になると、桐生史仁さんから手紙が届きます。
桐生さんはもう実は亡くなっていて、つまり死んだ人から手紙が届く、というミステリーです、今回は。
最初の手紙は、荻原さんが初めての本を出版した時に届きます。
ただ、この手紙を驚きながらも嬉しく感じている、荻原さん側の反応が不思議なところで、恐ろしいとか呪い系ではないのだと分かります。
荻原さんと桐生さんとの関係は、彼らが高等学校の学友になったところから始まり、卒業後も続いていました。
二人とも文芸を志していましたが、桐生さんは悪い病気にかかってしまい、そして治すお金もなかったことで、彼は若くして亡くなってしまいます。
亡くなる前に桐生さんは、病気になってもとても良くしてくれた荻原さんとその家族の、将来の人生の節目を数えて、その分の手紙を書きました。
自分にもう「将来」がないことを分かっていたんですね、とても悲しいことですが。
ただ悲しい反面、大切な友人の幸せな将来を想像しながら手紙を書くことは、療養中の楽しみにもなって、病気のことを忘れられる時間であったのではないでしょうか。
そしてその桐生さんの気持ちをたくさん詰め込んだ手紙が、彼が亡くなった後になぜか切手も貼られずに届くことになるわけです。
その手紙を、荻原さん達はいつしか待つようになっていきました。
しかし荻原さんが結婚した時に、桐生さんからの手紙は届きませんでした。
荻原さん本人の結婚、この人生の節目に手紙が届かないはずがない、と思いますが、やはり届きません。
送り主が亡くなっている以上、今まではだれかが届けてくれていたのでしょうが、しかしそんな人は見当たらないし想像もつきません。
桐生さんの唯一の家族であるお父さんも、もう亡くなっていたのです。
本来は来るはずのない手紙と納得しようとしますが、しかし・・・と荻原さんは考えてしまいます。
そんなところに雨柳堂の蓮さん登場です!
お待たせしました!というか、何か探ってんのか!?という感じで、荻原さんの周りにちょこちょこ現れます。
黒い外套の男が最近目につくな、と気になっていた荻原さんですが、思わぬところから雨柳堂を紹介されて、知り合いになります。
すると蓮さんから、黒い文箱を見せられました。
大した価値があるわけではない、この骨董品の文箱ですが、この中に荻原さんあての手紙が入っていました。
死の間際に書かれた最後の2通が入っていたんです。
雨柳堂さんの手元にこの文箱が引き取られた時には、フタが割れていたのだそうで、そのせいで手紙が届かなくなってしまったのかしら?と思ってしまいました。
ただ、友人の将来を想って書かれた手紙に込められた念が、また一段と念が強かったのでしょう。
それで雨柳堂さんの元に助けを求めるように文箱ごと渡ったのでしょうか。
そして、蓮さんはこの手紙を送り主に届けようとして、荻原さんの周りをウロウロしていたのではないでしょうか!
こうして、少し遅れてしまった結婚祝いと、ちょっと気の早い出産祝いのお手紙が、無事に荻原さんに届けられました。
手紙を受け取った奥様の嬉しそうな顔もあって、桐生さんの願いが無事に届いて本当に良かった、と思うのと同時に、最後の2通が見つかって荻原さんもすっきりしたのではないでしょうか。
思いが詰まった手紙が全て届いて良かった半面、彼が友人の将来を想って書けたのはここまでで、この先は荻原さんは自分で進んでいくんだな、と思うと少し寂しいような、でも前向きな気持ちをくれました。
今回は蓮さんが大活躍!という話ではありませんでしたが、優しい後味のお話しでした!
次回も雨柳堂の蓮さんの活躍が楽しみですね!